桜の花びら舞う頃に
15分後……


さくらの家を後にした悠希は、大貫のタクシーで駅へと向かった。



「いい人たちだったな……」



悠希は、さくらの家での出来事を思い出す。





「はじめまして、月島 悠希です!」


玄関先で、頭を下げる悠希。


「はじめまして、さくらの母です」


つばきは、にこやかに微笑んでいる。

その笑顔に少しだけ、心が安らぐ悠希がいた。




(ちゃんと……全てを言うんだ!)




悠希は、拳を握る。



「あ……あの!」



勢い良く顔を上げる。



そして、ゆっくりと話し出した。



自分には、子供がいること。


その子供は、さくらが担任をしていること。




そして……




悠希の、さくらに対する熱い想いを。




その言葉を聞いたつばきは、大きくうなずいた。


「な~んだ、いい人がいるんじゃない」


そう言って、つばきは笑う。


「……え?」

「お母さん……いいの?」


当然、反対されるものだと思っていた。

しかし、その予想外の展開に、2人は驚きを隠せない。


「いいって……何が?」


つばきは、不思議なモノを見たような表情で首をかしげる。


「だ、だって……あたし、お見合いを勝手に断っちゃったし……」

「自分には、子供がいるんですよ?」


しかし、つばきは、静かに首を横に振った。



「……いいこと? 親は……いつでも子供の幸せを願っているものなの」



微笑むつばきの顔は、優しい温かさに包まれている。



「あなたが選んだ人なら、お母さん、何も文句は言わないわ。あなたを……信じてるもの」



そして、つばきは悠希に向き直った。



「月島さん……ワガママな子ですけど、どうかよろしくお願いします」


「い、いえ! こちらこそ、よろしくお願いします!」



深々と頭を下げるつばきに、悠希はあわてて頭を下げる。



「お母さん……悠希くん……」



2人のその姿に、胸に熱いものが込み上げてくるさくらだった。







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