桜の花びら舞う頃に
「……って、あれ?」



しかし、不意に何かが足りないことにさくらは気付く。


「お母さん……お父さんは?」

「それがね……」


つばきは、奥に目を向けた。


「あの人……照れ屋なところあるから……」

「お父さん……」


ため息をつく、さくら。


「いえ、突然来た自分が悪いんです。また、改めてお伺いします」


そう言って、悠希は微笑むのだった。









「それじゃ、失礼します」


「帰り道、気をつけてね」


「今度は、お子さんも連れてきてね」



頭を下げた悠希に、さくらとつばきは名残惜しそうに言う。


「はい、ありがとうございます!」


悠希は微笑むと、さくらを見た。


「それじゃ、また向こうでね」

「うん、またね」






悠希が玄関の扉を開けた瞬間━━━




「つ……月島くん!」




突然、奥の部屋から、さくらの父親の剛也が走ってきた。

剛也は2人の横を通り過ぎると、裸足で玄関に下り立った。



「さ……さくらは、本当にワガママで……泣き虫で……色々と手のかかる娘じゃが……」


「もう、お父さん……少しは誉めてよ」



剛也の言葉に、さくらは唇をとがらせる。



「でも……本当に大切な娘なんだ……」



剛也の瞳に涙が光った。



「だから……どうか、よろしく頼みます」



そう言って、剛也は深々と頭を下げる。

悠希は、そんな剛也に向き直った。




そして……




「約束します! こちらこそ、よろしくお願いします!」


力強くそう答え、剛也よりも深く頭を下げるのだった。











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