桜の花びら舞う頃に
「━━━兄ちゃん、着いたぞ」



その言葉で我に返る悠希。

窓の外を見ると、タクシーはすでに駅に到着していた。


「兄ちゃんとも、もうお別れか……寂しくなるなぁ」


大貫は、しみじみと言う。


「色々と、ありがとうございました!」

「よ、よせやい! 昨日今日の仲じゃないんじゃけ!」



(いや……今日、初めて知り合ったんだけど……)



心の中で1人ツッコミを入れながらも、悠希はタクシーから降りた。


「あっ、そうだ! 料金はいくらになります?」


悠希は運転席に回ると、ポケットから財布を取り出す。

しかし大貫は窓を開けると、目をつぶって首を横に振った。


「いいってことよ! 2人のご祝儀ってことじゃ」

「えっ!? 本当に?」

「ああ!」

「そこまでしてくれるなんて……」


大貫は、片目をチラッと開く。



「……いや……でもな……兄ちゃんが、どうしてもって言うなら……」


「いえ、言いません! ありがとうございまーす!」



きっぱり言い切り、財布をしまおうとする悠希。


「い、いや、そこはもう少し粘ろうよ~!」


あわてふためく大貫に、思わず悠希から笑い声が漏れた。


「あははっ、冗談ですよ、冗談!」

「ウヌゥ……兄ちゃん……なかなかやりおるな……」


大貫は、ため息混じりに苦笑する。


< 492 / 550 >

この作品をシェア

pagetop