桜の花びら舞う頃に
「ところで……さ」



悠希は、不意に真剣な声になった。



「香澄さんは……どうだった?」


『えっ? ……う、うん、会ったよ』


「大丈夫だった?」


『う……うん、まぁ……事情を説明してさ……わかってもらえたよ』



電話の向こうからは、動揺したような、少し上擦った声が聞こえてくる。


『その後、3人でカラオケ行ってさ……そう! 香澄さん、カラオケ上手いのな!』


ごまかすように、明るく振る舞う玲司。

明らかに、いつもの玲司ではない。

きっと、何かあったのだろうということが、容易に想像できた。


しかし、そこはあえて気付かないフリをする。


玲司の優しさを、無駄にしたくはないから。




(ありがとう……玲司……)




そのとき、ホームに新幹線がなめらかに滑り込んできた。



『そうそう、それでな……』


「あ……玲司、ごめん! 新幹線来たから」



悠希は、玲司の話をを遮る。


『え? あ、ああ……じゃ、またな』

「ああ……玲司……悪いな」

『バ~カ、気にするなって! じゃーな!』


そう言って電話は切れた。


悠希は、静かになった携帯電話を、しばし見つめる。


やがて短く息を吐き出して、それをポケットにしまった。




新幹線に乗り込んだ悠希は、窓際の席を確保する。



しばらくして発車のアナウンスが流れ、新幹線は静かに動きだした。




(香澄さんには……帰ったらちゃんと謝ろう)




流れゆく夜景を眺めながら、悠希は心にそう思うのだった。










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