桜の花びら舞う頃に
━━━当然そうなるものだと






悠希は思っていた……






しかし……






「た~?」






そこには、困惑した表情の拓海がいた。




「パパ……何言ってるの……?」


「何って……」



拓海は、わなわなと震えている。




「僕たちのママは……1人しかいないでしょ?」




拓海は、頭を激しく左右に振った。



「僕のママは……優しかったママは、1人だけなんだよーっ!!」


「た~!! た~!! 落ち着けって!!」



悠希は、拓海の肩を両手でつかむ。



「どうした? 今日のた~、ちょっとおかしいぞ?」



その言葉に、拓海はまた首を左右振った。



「おかしいのは……パパの方だよ……」



悠希をにらむ拓海の瞳には、溢れんばかりの涙が光っている。



「パパは、ママのことが好きだったんじゃないの?」


「た~、それは……」


「パパは、ママのこと、忘れちゃうの!?」


「違うんだ、それは……」



必死になだめようとする悠希。

しかし、もはや拓海の耳に悠希の言葉は届かない。





「もし……忘れることが、大人になるってことなら……」





拓海は叫ぶ。





「僕は、大人になんかなりたくないっ!!」





その大きな瞳から、こらえていた涙が溢れだした。



「離してっ!」



拓海は手を振り解くと、悠希に背を向けて走り出す。



「拓海ーっ!!」



すぐさま後を追いかけようとするが、



「来ないでーっ!!」



拓海に泣きながらそう叫ばれた悠希は、その場に立ち尽くすことしか出来なかった。










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