桜の花びら舞う頃に
「あ~あ……」



防波堤に1人座る拓海は、海を眺めてため息をつく。



「なんで、あんなこと言っちゃったんだろ……」



問いかけても、返ってくるのは波の音だけ。



「さくら先生のこと、大好きなのに……」



拓海は、落ちていた石を拾い上げる。



「ずっと一緒にいられたら嬉しいのに……」



角が取れて丸くなった石を、じっと眺める拓海。



「も~~~っ!」



思わずこぼれそうになる涙をこらえ、鼻をこすりながら、拓海は立ち上がる。



「飛んでけーっ!」



大きな声と共に、海に向かって石を投げた。

石は、短い放物線を描いて海の中に消えていった。



はぁはぁと、肩で息をして、拓海は立ち尽くす。



「嬉しいけど……」



海を見つめるその顔には、悲しみが浮かんでいた。




「ママを忘れちゃうのはイヤなんだよ……」




かつてないほどの、深い悲しみが……








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