桜の花びら舞う頃に
その瞬間━━━






強い風が拓海の身体を吹き抜けた。






「あーっ!!」



風は、拓海が手にしていた画用紙を奪い取る。



風にあおられた画用紙は、空中でクルクルと舞うと……

やがて、防波堤の下にある消波ブロックに引っかかり動きを止めた。



「た、大変だーっ!」



拓海は、あわててのぞき込む。

今は消波ブロックの上で安定している画用紙だが……

もう一度、強い風が吹いたらどうなるかはわからない。

もし海に落ちたなら、拾い上げることは、まず不可能だろう。



「……よしっ!」



拓海は意を決すると、防波堤から消波ブロックの上に降り立った。



「うわわわ……」



消波ブロックの上は、少しの風が吹いてもバランスを崩しそうになる。

更に、波しぶきを浴びて濡れたブロックは、予想以上に滑りやすかった。


12月のこの時期に、海に落ちたら命にかかわるかもしれない。

拓海は、慎重に一歩一歩を踏み出していった。



「よっ……うわっと」



なんとかバランスを取りながら、拓海は進んでいく。



「よ~し、もうちょっとだぞー!」



自分を励ます拓海は、ついに手を伸ばせば届く距離にまで来た。



「ん~~~!」



必死に手を伸ばし、画用紙をつかもうとする。



「あと少し……あと少し……」





10センチ……



5センチ……



3センチ……





画用紙との距離が、徐々に縮まっていく。







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