桜の花びら舞う頃に
さくらと麻紀は、引きつった笑顔のまま席についた。

その様子に気付いた玲司。


「おかえりー、お二人さん!」


なるべく明るい声を意識する。

しかし、言葉は返ってこなかった。

麻紀は手にしたグラスの中身を一気に飲み干すと、返事のかわりにキッと玲司をにらむ。


「あ……いや……そ、そうそう、エリカ! さっき一緒に飲んでた人は大丈夫なのか?」


プレッシャーから逃れるように、無理やり話題を変える玲司。


「さっきの? あ~、いいのいいの」

「そんな軽く……」


手で払うような仕草をするエリカに、思わず言葉が漏れるさくら。


「だって、40過ぎのオジさんだよ?」


エリカは笑う。


「こんな若くて可愛い子と一緒に飲めたんだから、逆に感謝してもらわないと」

「自分で言うか、普通……」


つぶやく麻紀。

しかし、幸いなことにエリカの耳には届かなかった。


「しかも、アタシに付き合ってとか言ってくるんだよ? マジ、最悪!」



(うん、それは最悪の選択だ!)



悠希は心の中で、声を大にして言う。

その言葉も、当然エリカには届いていない。


「お前なんて、仕事じゃなかったら、一緒にいるのも嫌だっての」


エリカは、ケラケラ笑う。


「付き合ってって……結婚してないの? その人」

「……奥さんに、逃げられたんだってさ~」


さくらの質問に、一応、答えを返すエリカ。

興味なさそうに、髪を指でクルクル巻きながら言う。


「アタシに会うまで、ずっと忘れられずに引きずっていたんだって。……キモくない? それって」


その言葉にハッとする玲司。

悠希が、少し沈んだ表情を浮かべたのを見逃さなかった。


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