桜の花びら舞う頃に
しばらくの間、そのやり取りを黙って聞いていた玲司だったが、遂には耐えきれなくなった。


「……いい加減にしろっ!」


机を激しく叩く。

皿の中の料理が、宙に飛び上がった。


「ほ~ら、玲司が怒った」

「なっ……!」


まるで、自分には全く責任がないかのような振る舞いに、憮然とする2人。

エリカは玲司の腕を取ると、2人にべ~と舌を出した。

玲司は、そんなエリカの腕を外すと、ゆっくりとエリカに向き直る。



「いい加減にするのは……お前だ、エリカ!」



一瞬、何を言われているのか理解できないという表情を、エリカは浮かべた。


「え……? 玲司?」


しかし、玲司の表情から状況を察したらしい。


「や……やだな~、ちょっとした冗談じゃない。……そんな怖い顔しないでよ~」


ごまかすように、エリカは明るく振舞った。

しかし、玲司は表情を緩めない。


「エリカ……お前、もう帰れ!」


玲司のその雰囲気に、気圧された様子を見せるエリカ。


「な、何よ、これじゃアタシが悪者みたい!」


そう言いながらも、素直に席から立ち上がった。


「……あ、そうそう!」


エリカは、去り際に再び口を開く。


「玲司、たまには連絡してよ。アタシのアドレス知ってるんだからさ~」


甘えたようにエリカは言った。


「……ああ、これな」


玲司は携帯電話を取り出した。


親指と人差し指、2本の指でつまみ上げる。

そのままグラスの上に持っていく。



「あっ!?」



その場にいた誰もが声を上げた。

なんと玲司は、自らアルコールが入ったグラスの中に、携帯電話を落としたのだ。


「……玲司?」


玲司は、ニコッと微笑むとエリカに言った。



「悪いな……携帯、使えなくなったよ」




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