桜の花びら舞う頃に

悠希は夢を見ていた。


深い深い霧の中、悠希の目の前には由梨がいる。


由梨は、悠希に話しかけてきた。




「━━━」




しかし、その声は聞こえない。


「由梨……声が聞こえない」

「━━━っ!」


尚も由梨は一生懸命に話しかけてくる。

しかし、やはり悠希には聞こえなかった。


自分の声が届かないことを知った由梨は寂しげに微笑み、悠希に背を向けて、ゆっくりと霧の中へと歩き出した。



「由梨っ!」



悠希は叫んだ。


悠希の頬を、一筋の涙がつたう。


その声に反応したのか、由梨は一度こちらを振り返った。



「……くん」



今度は、かすかにだが声が聞こえた気がする。



「悠希くん」



今度ははっきりと、名前を呼ぶ声が聞こえた。



「悠希くん!」



「由梨!」



悠希は叫んだ。


由梨をつかもうと手を伸ばす。


しかし、その手は空を切った。


悠希の目に映るものは霧の中の由梨ではなく、フレアの看板とその周囲の景色だった。







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