桜の花びら舞う頃に
「……夢か」


悠希はつぶやく。


「また、この夢か……」

「悠希くん……?」


悠希はハッとする。



夢から覚めたはずなのに……



悠希は声のした方を見た。

そこには、由梨によく似たさくらが、驚きの表情で立っていた。


「さくらちゃん……?」


「大丈夫……? 悲しい夢を見てたみたいだけど……」


悠希はその言葉で、自分の頬をつたう涙に気付き、急いで涙を拭った。



(見られた!)



顔が熱くなる。


「さくらちゃん……俺、何か言ってた?」


おそるおそるたずねる。


「う、うん……由梨ーって、大きな声で叫んでた……」


その言葉で、悠希の顔はますます熱くなる。

もう、さくらの顔は見ることができない。

うつむく悠希を見たさくらは、悠希のとなりにそっと腰を落ろした。


「……はい、これ」


さくらは、グラスに入った温かいウーロン茶を差し出す。


「少し、冷めちゃったけど……」

「いや……ありがとう」


悠希は、さくらからグラスを受け取る。

立ちのぼる湯気と共に、ふんわりとウーロン茶の心地よい香りが漂う。





< 79 / 550 >

この作品をシェア

pagetop