桜の花びら舞う頃に
━━━3年前。
よく晴れた日曜日の午後。
悠希と由梨は、3歳の息子、拓海を連れて近所の公園に遊びにきていた。
「きゃはは、パパまてーぇ!」
「ほら、た~、こっちだよー」
走り回る父と子。
それを微笑みながら見つめる妻。
誰が見ても幸せな家庭がそこにはあった。
心ゆくまで遊んだ3人は公園を後にした。
ずっと走り回っていた拓海は、よほど遊び疲れたのだろう。
今は悠希に背負われ、その背中で安らかな寝息を立てている。
「ふふっ」
拓海の寝顔をのぞき込み、由梨は目を細めた。
拓海の頭をなでる由梨の姿に、悠希は幸せを感じていた。
(まるで聖母みたいだな……)
そんなことを考えている悠希は、ふと自分をじっと見ている由梨の視線に気付いた。
「な、なに?」
「……今、変なこと考えてたでしょ?」
ドキッとする悠希。
「か、考えてないって!」
「ホントに~?」
そう言いながら、由梨はまた「ふふっ」と短く笑った。
「本当だって! それより━━━」
動揺を悟られないよう、出来るだけ平静を装って話す悠希。
「今日は久しぶりに思いっきり走り回ったから、た~も遊び疲れたろう」
背中の拓海は、小さな口を開けて夢の中にいる。
「そうね、まだ3歳だもんね」
由梨は拓海の頭を優しくなでた。
「でも、すごく喜んでたし、また来たいね」
「うん、今度はお弁当作って行こうね」
由梨は悠希に微笑んだ。
悠希も由梨に微笑み返す。
悠希は、今が永遠に続けばいいとさえ思っていた。