桜の花びら舞う頃に

「……ねぇ」

「……ん?」

「この子は……大きくなったら、どんな人になるのかな?」


由梨は、悠希と拓海を見比べながら言った。


「どんな大人でもいいさ、人として間違ったことさえしなければ……」


悠希は、笑顔を崩さずにそう答えた。


「……ねぇ」

「ん?」

「ま~た、かっこいいこと言ったと思ってるでしょ~」


目を細めている悠希に由梨は言う。

その顔に、イタズラな笑みを浮かべて。


「ゆ、由梨っ!」


照れ隠しに声を荒げる悠希。

手を伸ばして捕まえようとする。


「あははっ」


しかし由梨は、いたずらっ子のように笑い、悠希からひらりと身をかわした。

その動きに合わせ、由梨の髪がふわりと舞う。

高校時代、陸上部のホープだった由梨の足は今でも速く、わずかな時間で悠希との距離がひらいた。

すぐには捕まらないほどの距離と判断した由梨は、手を後ろで組むと、くるりと悠希に向き直る。


「べ~」


そして、イタズラな笑顔のまま、可愛らしい舌を出した。


「……ったく!」


少し怒ったようなそぶりを見せる悠希。


「……由梨には勝てないよ」


しかし、すぐに苦笑いを浮かべる。


「へへっ」


由梨は得意気な笑みを見せていた。








< 84 / 550 >

この作品をシェア

pagetop