桜の花びら舞う頃に
「……ねぇ」
「……ん?」
「この子は……大きくなったら、どんな人になるのかな?」
由梨は、悠希と拓海を見比べながら言った。
「どんな大人でもいいさ、人として間違ったことさえしなければ……」
悠希は、笑顔を崩さずにそう答えた。
「……ねぇ」
「ん?」
「ま~た、かっこいいこと言ったと思ってるでしょ~」
目を細めている悠希に由梨は言う。
その顔に、イタズラな笑みを浮かべて。
「ゆ、由梨っ!」
照れ隠しに声を荒げる悠希。
手を伸ばして捕まえようとする。
「あははっ」
しかし由梨は、いたずらっ子のように笑い、悠希からひらりと身をかわした。
その動きに合わせ、由梨の髪がふわりと舞う。
高校時代、陸上部のホープだった由梨の足は今でも速く、わずかな時間で悠希との距離がひらいた。
すぐには捕まらないほどの距離と判断した由梨は、手を後ろで組むと、くるりと悠希に向き直る。
「べ~」
そして、イタズラな笑顔のまま、可愛らしい舌を出した。
「……ったく!」
少し怒ったようなそぶりを見せる悠希。
「……由梨には勝てないよ」
しかし、すぐに苦笑いを浮かべる。
「へへっ」
由梨は得意気な笑みを見せていた。