桜の花びら舞う頃に
「ん~、ママぁ?」
目を覚ました拓海は、悠希の背中から降りると、倒れている母親を不安そうに覗きこんだ。
「た~……!」
悠希は、その悲惨な現場を見せぬよう、由梨の体に自分の上着をかけ、拓海の視線をさえぎった。
「ママぁ……」
しかし、由梨の様子に異常を感じた拓海は、今にも泣き出しそうな表情を浮かべる。
「た~……」
そんな拓海の不安を吹き飛ばすように、由梨は優しく名前を呼んだ。
「ママ!」
由梨は、いつもの優しい笑みを浮かべる。
由梨の声と笑顔に、安心した拓海もまた笑顔になる。
「た~……パパの言うこと……ちゃんと聞いて……」
途切れ途切れに話し出す由梨。
「た~なら……出来る……よ……ね?」
「うん! た~、おりこうさんだもん!」
舌っ足らずな声で元気に答える拓海。
「うん……うん……」
由梨の目にも涙が溢れ出す。
「ママ……た~のことが……世界で一番……好きよ……!」
「うん! た~もママのこと、だいすきだよ!」
満面の笑みで由梨に答える拓海。
悠希は思わず2人を抱きしめていた。