桜の花びら舞う頃に
「悠希……」
「もう……もうしゃべるな!」
抱きしめたまま、悠希は由梨を制する。
「ううん……悠希、ちゃんと……言っておきたいの」
悠希は下唇を強く噛み締めた。
「あたし……悠希と出会えて……本当に良かった……」
由梨は涙を流しながらも、笑顔でそう言った。
「だから……ありがとう……本当にありがとう……」
「やめろよっ!」
悠希は叫んでいた。
「また、一緒に公園に行くんじゃなかったのかよ!! 3人で弁当食べるんじゃなかったのかよっ!!」
「悠希……」
「だから……だからもう……そんなこと……」
終わりの方は言葉にならない。
声にならない悠希の叫びだった。
「悠希……ごめんね……拓海を……お願い……」
途切れそうになる意識を必死につなぐ由梨。
「わかった、わかったから、由梨っ!」
由梨はその言葉を聞くと、悠希に優しく微笑んだ。
それは、今まで見た中で、間違いなく一番美しい笑顔だった。
そして2人は、どちらかともなく瞳を閉じる。
そっと唇を合わせていく。
その姿、その感触、そのぬくもりを決して忘れぬように。
2人が描いた軌跡を、その心に刻むように。
閉ざされた2人の瞳からは、涙がとめどなく溢れていた。