桜の花びら舞う頃に
「ぐすっ……ひくっ……悠希くん、そんなつらい過去があったのね」


フレア内の麻紀も、涙を流していた。

ハンカチで、その涙を拭う。


「ああ、だから……アイツを馬鹿にするやつを……俺は許せないんだ」


玲司は静かに、しかし力強く言った。


「うん、うん……」


大粒の涙を流す麻紀。




「ところで……さ」




玲司は頭をポリポリとかいた。



「……この状況って……思いっきり、俺が泣かしてるように見えない?」



ばつが悪そうに周りを見回す。


「だって……だって……ふぇぇぇん」

「こ、声まで出すなよ!」


思わず立ち上がる玲司。

玲司の耳には、周りの客のささやく声が聞こえてきた。




「なになに? 別れ話?」

「男の方が、昔の女の人を忘れられないみたいよ」

「あの子のことを……トラックでひくって脅してる……」

「何!? じゃあ、アイツはひき逃げ犯?」




話はどんどん飛躍していく。

今や、玲司と麻紀は店内の注目の的になっていた。




(勘弁してくれ~!)




頭を抱える玲司。

その前で、麻紀は肩を震わせつぶやいた。




「玲司の……」




そして、泣きながらも大きく息を吸い込む。




「玲司の……馬鹿ぁ!」


「なんでだよっ!!」




玲司も、泣きたい気持ちでいっぱいだった。










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