桜の花びら舞う頃に
「さくら……ちゃん?」



悠希は戸惑いの声を上げる。

悠希は、さくらに抱きしめられていた。

さくらの細い腕で引き寄せられ、強く強く抱きしめられていた。


「さくらちゃん、何を……」

「……もういいよ、悠希くん」


さくらは悠希の言葉をさえぎった。



「そんな悲しいこと……言わないで」



悠希を抱きしめる腕に、更に力が入る。




「由梨さんとの思い出は……つらいことだけじゃないでしょう? ……楽しいことも、たくさんあったでしょう? それに……」




さくらは一度言葉を切る。




「……それに、2人が出逢わなかったら、拓海くんは生まれなかったんだよ?」


「た~……」




悠希は拳をギュッと握った。



「だから……もう、自分を責めないで!」

「……」

「もう……そんなに苦しまないでよ……」

「さくらちゃん……」



悠希の瞳から、一筋の熱いものが流れる。




「……あ、あれ?」




悠希は戸惑いの声を上げる。


「おかしいな……涙は、全て流しきったと思っていたのに……」

「いいよ、悠希くん……」


さくらは優しい声で言った。




「つらい時は……泣いてもいいんだよ」




その言葉で、悠希の心を押さえつけていたタガが外れた。


ダムが決壊するがごとく悠希は泣いた。


声を上げ、体を震わせ悠希は泣いていた。


さくらは、そんな悠希を強く強く抱きしめていた。











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