桜の花びら舞う頃に
10分ほどそうしていたろうか、悠希は次第に落ち着きを取り戻してきたようだった。



「さくらちゃん……」



悠希は、さくらに話しかける。


「ありがとう……さくらちゃん」

「……ううん」


さくらは首を振った。


「……涙はね、心のビタミンなんだって。だから、泣くと心の痛みも軽くなるんだよ」

「うん……」


さくらの腕から解放された悠希は、ゆっくり顔を上げた。


「さくらちゃんのおかげで……!」


しかし、その言葉は最後まで続かなかった。

見れば、悠希は必死に笑いをこらえている。


「なに? どうしたの?」


キョトンとするさくら。


「さ……さくらちゃん……顔……」

「えっ!?」


さくらは慌ててコンパクトを取り出すと、鏡で自分の顔をチェックする。


「あ……!」


そこには、涙で大きく化粧が崩れた顔があった。

マスカラと涙が混ざり、黒い涙跡もできている。

今にも吹き出しそうな悠希に、さくらは頬を膨らませた。


「ゆ、悠希くんだって!」


ずいっと、鏡を突きつける。

悠希は、その鏡をのぞき込んだ。


「うわっ!」


真っ赤な目、涙の跡、そして頬にはさくらの服の跡がしっかり付いていた。


顔を見合わせる2人。



「……」


「……ぷっ!」


「あはははははっ!!」



2人とも思わず吹き出し、大声で笑い出す。


その笑顔は、夜空の星のように輝いていた。









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