天然男の恋愛事情〜オフィスは恋の花盛り〜
俺は、頭を思い切り殴られた気がした。
麻衣ちゃんの、店内中に響き渡るような、悲痛な叫び声に。


「“俺を信じろ”って言ったくせに……」


ガタンと音がして顔を上げると、麻衣ちゃんは立ち上がり、涙でぐちゃくちゃな顔で俺を見下ろしながら、バッグを掴んで歩き出した。


「いま出ちゃダメだ!」


俺は咄嗟に立ち上がると、行こうとする麻衣ちゃんの腕を掴んだ。


「雨が収まるまで待った方がいい」

と俺は言ったが、

「放してください」

と、麻衣ちゃんらしくない低い声で言われ、俺は手を放さざるをえなかった。


麻衣ちゃんは、俺の顔を一瞬だけ見詰めると、激しく雨の降る店の外に、飛び出して行った。


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