きみコレ

白石さん家でご飯を済ませた私は、階段から上ってくる高校から見知った彼を見つけた。

「こんばんわ、先輩」

吊り眼ワインレッド目という何とも怖い外見をした彼は、こちらを見た時に今までの険しい無表情を綻ばせた。

「お疲れ様です」

「おう」

この怖い外見をした人は、私の卒業した高校の先輩の達御門 夏生(タチミカドナツキ)さん。苗字の通り冬児さんのご兄弟で兄だ。

「いつから外にいたんだ?」

「たった今です!」

そうか、と言って笑ってくれるこの人は生れ付き目が紅い。おまけに吊り眼のせいで、周りから怖がられてた。でも実際話しをすると、物静かだけど、どこか子供っぽくて反応の面白い人だ。

「今日は随分と遅かったですね」

「あぁ。バイク盗まれた」

「はぁあ?!!ちょ、じゃあ歩いて帰って来たんですか!?」

「他手段ねぇじゃん」

「此処から仕事場まで16Kmあるんですよ!?何で冬児さんに連絡しなかったんですか」

「高校の仕事で疲れてるだろ。迷惑掛けらんねぇ」

あふぉだ。ならバスとかタクシーとか捕まえれば良かったのに。
こんな人が高校3年間学年首位だったって?うっそーん世界終わって…

「踝潰すぞ」

「心を読まないで」

夏生先輩はそう言いながらも、私に歩調を合わせてくれる。私わざと遅くしてるのになぁ。


なんで私も、こんな人を好きになったのかなぁ。いや、昔だけどね。高校生時代、唯一私の人生の中で彼氏になった人。
駄目元で告ってみたらOKを貰えたからその時は失神しそうになったよ。

え?何で今は付き合ってないのかって?…色々あるんだよ。それに昔の事だし、

「ほら、」

「あだっ、おでこが…て、ココア?」

「お前も好きだっただろ?やる」

「夏生先輩も好きでしたよね〜」

「んだよ、顔と合わねぇってか?」

「いいえ、可愛いです」

「……うっせ、」

そう言ってちょっと顔を赤らめる夏生先輩から貰ったココアを一口飲む。
「冷たい」

「あっそ」

「でも美味しい」

「そうかよ」

―――なんだか、いつもよりココアが甘かった気がする。――――


【初恋の先輩と今日この頃】
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