夜嵐
1. 序章
1. 宣告
「肺がんです」
人生とは、何のためらいもなく終りを告げる。
ここは高坂総合病院。
日本の最新技術と設備を完備した病院だ。
内科、産婦人科、小児科、眼科、皮膚科と、多種多様な診療科がある。
その一つ、外科の診察室で死の宣告を受けた。
「………本当ですか。
冗談はよしてください」
黒川は現実を受け止められず、西沢先生に聞いた。
会社で一年に一回行われる健康診断に引っ掛かり、仕事の合間に訪れた病院………
きっと高血圧だろう。
以前から、血圧計では高血圧の値を示していた。
しかし、予想は大きくズレた。
「ですから、肺がんです」
西沢先生は眉ひとつ動かさず、黒川を見つめた。
『嘘ではありません。真実を言ったのです』
目を見ると、その言葉が頭に流れた。
これは仕事の経験からだろう。
会社に入社して、営業一筋30年。
相手が何を求めているのかを第一に考え、お客様のニーズと会社の利益のみを追求し続けたからこそ、西沢先生の内心がわかる。
「ラッキーですかね」
独り言を小声で言った。
「はぃ………?」
自分は死の宣告をしたのに『ラッキー』なわけがないだろ。
「お言葉ですが、肺がんの意味をお分かりでしょうか」
病名を知らないのか、それとも現実逃避をしているのかを確認しているようだ。
だが、黒川の『ラッキー』とは運を示していない。
煙草の銘柄を示している。肺がん率が最も高い。
つまり、数多の銘柄の中では『死』への近道とも言える。
「先生は煙草を吸わないんですか」
左手の人差し指と中指で煙草を持ったように見せ、口元を押さえた。
そして、息を吐きながら、左手を西沢先生の方へ動かした。
見えない煙草をふかしているような仕草だ。
「吸いません」
きっぱりと答えた。
その答えを聞き、黒川はため息をついた。
人生とは、何のためらいもなく終りを告げる。
ここは高坂総合病院。
日本の最新技術と設備を完備した病院だ。
内科、産婦人科、小児科、眼科、皮膚科と、多種多様な診療科がある。
その一つ、外科の診察室で死の宣告を受けた。
「………本当ですか。
冗談はよしてください」
黒川は現実を受け止められず、西沢先生に聞いた。
会社で一年に一回行われる健康診断に引っ掛かり、仕事の合間に訪れた病院………
きっと高血圧だろう。
以前から、血圧計では高血圧の値を示していた。
しかし、予想は大きくズレた。
「ですから、肺がんです」
西沢先生は眉ひとつ動かさず、黒川を見つめた。
『嘘ではありません。真実を言ったのです』
目を見ると、その言葉が頭に流れた。
これは仕事の経験からだろう。
会社に入社して、営業一筋30年。
相手が何を求めているのかを第一に考え、お客様のニーズと会社の利益のみを追求し続けたからこそ、西沢先生の内心がわかる。
「ラッキーですかね」
独り言を小声で言った。
「はぃ………?」
自分は死の宣告をしたのに『ラッキー』なわけがないだろ。
「お言葉ですが、肺がんの意味をお分かりでしょうか」
病名を知らないのか、それとも現実逃避をしているのかを確認しているようだ。
だが、黒川の『ラッキー』とは運を示していない。
煙草の銘柄を示している。肺がん率が最も高い。
つまり、数多の銘柄の中では『死』への近道とも言える。
「先生は煙草を吸わないんですか」
左手の人差し指と中指で煙草を持ったように見せ、口元を押さえた。
そして、息を吐きながら、左手を西沢先生の方へ動かした。
見えない煙草をふかしているような仕草だ。
「吸いません」
きっぱりと答えた。
その答えを聞き、黒川はため息をついた。