夜嵐
病院を出ると、日差しが強い。
季節は春の6月。
もうじき、夏に差し掛かる頃合いだ。
そろそろ、背広を着るのも厳しい季節かもしれないな………
冗談を考えながら、病院から会社に向かった。

高坂総合病院から会社までは30分程の時間がかかる。
病院から新大久保駅まで10分。
電車で一駅にある高田馬場駅から歩いて10分ほどの場所にある。
会社に戻る前に、煙草を吸いたい………
そろそろニコチンを摂取しなければ、やる気が出ない。
病院から出ると、考えることを保険から煙草に変わった。

時間を確認するため腕時計を見ると午後14時を示していた。
午前は大事な取引先との打ち合わせがあった。
技術者の池田と黒川の二人で取引先の会社を訪問し、状況の確認をした。
製品は電気部品でコピー機の電源装置だが、担当者から「もう少し、小型化できないか」と言う注文を受けた。
どうやら、他の部品を内蔵したいらしく、スペースが必要になったらしい。
そのため、朝早くに訪問することになった。
もちろん、答えは「YES」だ。

打ち合わせが終わると、池田は不機嫌そうな表情を浮かべていた。
「どうした」と聞くと「簡単に返事しないでください。どれだけ大変なことだかわかっているんですか」と言う。
黒川は池田の肩を叩き、「それが仕事だ。池田ならできる。期待しているぞ」と言った。
池田は照れくさそうに「わかりました」と言った。

その後、池田と別れ、黒川は健康診断に引っ掛かったため、病院に直行したが………

『肺がんです』

『恐れ入りますが、黒川さんの保険は通院が適用されていません』

順調だった人生は大きな節目を迎えようとしていた。
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