夜嵐
病院から新大久保駅まで歩いていると、コンビニが見えた。
もしかしたら、灰皿が置かれているかもしれない………
期待を持ちながら、コンビニを見たが灰皿はなかった。

「くそっ………」

無駄に期待をして損をした気分だ。
いつしか、歩く速度が上がった。誰かと競歩で競争しているような具合に………

煙草………
煙草………
煙草………

頭の中は煙草の事でいっぱいだ。
駅に向かうと、一人の若者が目に入った。
右手には煙草を持っている。
だが、その若者は歩きながらこちらに向かってくる。
つまり、『歩き煙草」というものだ。
若干、黒川は若者に嫌気をさした。

自分は我慢しているんだぞ。
周囲に気を使え。
黒川は人目のある場所では煙草を吸わない。
もちろん、灰皿ケースは常時持っているが、それは必要なときだけだ。
公園など、椅子に座れる場所で吸う。
街の美化やマナーを守るためではない。
ただ、そう決めているからだ。

若者がすれ違うと、煙草の匂いがした。
副流煙が鼻に入ったためだ。
もう、限界だ。
固く守ってきた喫煙ルールを破ろうかと考えた。

そう考えていると、目の前に灰皿が置かれている。
急いでその場所に向かった。
灰皿が置かれた場所はタバコ屋だった。
すぐに吸おうかと考えたが、店には、店員………
親父がいる。

こちらを見て、「吸う前に、煙草を買え」と言いたそうな眼をしていた。
仕方なく、財布を取り出し、煙草を購入することにした。
「ラッキー、一つ」黒川の注文を聞くと、親父はレジの後ろに置かれた棚から、『ラッキー』を取りだした。440円を支払った。

買った煙草を鞄に入れ、背広の内側ポケットから、『ラッキー』の入った箱とライターを取りだした。
中には4本の煙草が入っていた。
ここで購入して良かったかもしれないな………
火を点け、煙草をふかした。
うまい………
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