夜嵐
西沢先生と渡り鳥保険から受けたストレスが体内から煙として出て行くようだ。
黒川が煙草を吸う理由はストレスだった。
身体に貯め込んだストレスを吐き出すための手段とも言える。
だが、全てのストレスが煙に変わるとは限らない。
煙は肺を汚し、肺がんや心筋梗塞になる恐れがある。
それを知っていても煙草を禁煙しかなった。

黒川はふかしながら、空を見上げた。
自分が吐き出した煙が風に乗って遠くの方へ流れて行く。
この瞬間だけが、黒川自身の楽しみでもあった。
ストレスが体内から出る………
まるで、目に見えない荷物が煙となって消えて行くようだ。
煙草を吸っていると、選挙カーが黒川の目の前を通過した。

「吉田ケイスケをどうか、宜しくお願いします」

スピーカーから流れるうるさい音声を聞きながら、税金のことを考えた。
消費税や法人税を増税する………
財源確保のため、国民の財布から収入源を得ようとする。
正直、うんざりだ。

黒川は煙草をふかした。
煙は空に飛んでいく。
この煙には、黒川のストレスが一割、煙草の成分が一割、税金が八割入っている。
つまり、喫煙をふかす度に、自分のお金が日本の貯金箱に流れるわけだ。
そんな冗談を考えながら、煙草を吸い終えた。

吸い終えた煙草を灰皿に捨てた。
今の黒川は満足感でいっぱいだ。
もう一本吸おうと考えたが、高田馬場に着いたら吸えばいい。
黒川は新大久保駅に向かい歩きだした。
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