あの夏の日の空に願う





私は苦笑しながら、独り言のように「風歌」と呟いた。



「私は、風歌だよ。風の歌でフウカ」




名字は伏せて、名前だけ告げる。

不満そうな男の人。
確かに、“小鳥遊 天空”さんはフルネームで言ったんだし、私もそうすべきなんだろうと思う。





でもそうしたらバレてしまうかもしれないから、言わない。

私がこの世にいるべき人間じゃないということを、知られたくない。




ほんの少しむくれながら私を見つめる男の人に、私も誤魔化すように視線を送る。


こんなときに誤魔化し笑いなんて出来ればいいんだけど、笑えない私にそれは無理だ。



数秒間、お互い沈黙したまま見つめ合う。無表情で。
周りから見れば睨み合ってるように見えただろう。


暫くすると男の人は諦めたように首を振り、また口を開いた。


「何でこんなに早い時間に、こんなところにいるの?」


こんなところ、とは、私たちが今いる場所を表しているわけで。
つまりは、……………。




「ここどこ?」




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