龍とわたしと裏庭で【初期版】

ママのお姉さんだという貴子伯母さんは少しふっくらとした穏やかな人で、本当にわたしを大歓迎してくれた。


従姉の彩名さんは23歳。

物腰は上品だけど、陽気でおしゃべり。人形作家の卵なんだそう。


最初に出迎えてくれたお婆さんは和子さん。

伯母さんとママの乳母(!)をしていた人だって。伯母さんのお嫁入りにくっついて羽竜家に来たらしい。


後は通いのお手伝いさんが何人かと敷地の管理人のおじさんがいる。


そんなご大層なおうちに、親父はあっさりと一人娘を置いて帰って行った。


「そんなに悲しまないで。お父様は元気で帰っていらっしゃるわよ」

伯母さんがそっと手を握ってくれた。

無言でうなづいてみたが、悲しいっていうよりも『あのクソ親父~』という怒りの方が強い。


まあ、そんな事言えないけど。


「さあ、まずはお部屋に案内するわ!」

彩名さんが明るく言った。

「洋室の方がよろしいわよね?」

「えっ、洋室あるんですか?」

思わずきく。

「そうよね。どうみても武家屋敷ですものね」

彩名さんも苦笑い。

「でも祖父が当主だったときに3階建ての建物を増築したの。全部洋室よ。1階に図書室とわたしのアトリエがあるの。あなたの部屋はわたしと同じ2階に用意したわ。3階は全部弟の圭吾が使ってる」

「ええと……その圭吾さんがこの家のご主人なんですよね?」

「そうよ。本当は家にいて志鶴ちゃんをお迎えしなきゃいけないのに、ごめんなさいね」

「いいえ、そんな。おうちの仕事が忙しいって伯母さまも言ってたし」

「3年前に父が急に亡くなって全てがあの子の肩に乗ることになってしまったの。気苦労が多いせいかすっかり気難しくなったわ。顔を合わせる事は少ないとは思うけど、失礼な事があっても許してあげて下さる?」

「もちろんです!」

勢い込んで答えると、彩名さんはニッコリと笑った。

どこか懐かしいような笑顔だ。


ああそうだ。


ママの笑顔だ。


小学生の時に病気で逝ってしまったママは、どんなに苦しくてもいつも笑顔を絶やさない人だった。

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