龍とわたしと裏庭で【初期版】
「彩名さん、彩名さんのアトリエって見せてもらっていいですか?」
思い切って言ってみた。
「もちろんよ! 正直な感想を聞かせてね」
2階の渡り廊下を通り、まず先にと彩名さんが案内してくれたわたしの部屋は、今までの自分の部屋よりずっと広いけれれど、シンプルな感じの部屋で、ほっとした。
彩名さんの部屋は廊下を挟んで斜め向かい側。
他にもドアがいくつかあって、1階へ下りていく階段がある。
3階へ行く階段ってどこだろう?
ちょっと気になるけど、わたしが使う事はない訳だし、きくのはためらわれた。
彩名さんのアトリエは1階のほぼ半分を占める広さだった。
部屋の真ん中に大きな作業用のテーブルがあって、壁いっぱいに布なんかの材料を納めた棚が造り付けられている。
反対側の壁には大きなガラス張りの棚。
彩名さんが作った人形が色々なポーズをとっている。
他に、市松人形がいくつもあり、こっちは彩名さんのコレクションらしい。
「市松人形、お好きなんですか?」
「そうなの。いつかは自分でも作りたいと思っているのだけれど、こういう動きのないお人形の方が難しいのよ……そういえば志鶴ちゃんって市松人形みたいね」
「ああ、この髪のせいですね」
わたしの髪型は前髪の短い黒のロングストレート。
「きれいな髪よね。染めたりしたことないでしょう?」
「ええまあ」
別にポリシーがあるんじゃないけど
髪型整える時間がないだけ
それと気力がないだけ
さらにそんなスキルがないだけ
ここにいるうちに彩名さんみたいなフワッとした茶髪になれるかな
「そのままで十分かわいくってよ」
えっ、お見通し?
「ねえ、コーヒーでもいかが? 座ってゆっくりお話しましょうか。人形の感想とか、おしゃれの事とか、月曜日からの学校の事とか」
げっ、そうだった。明後日からこの町の高校に転校なんだ。
彩名さんはわたしに椅子を勧めると、アトリエから続き部屋になっているミニキッチンにコーヒーを入れに行った。