青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―
「だるっ」
独り言をこぼすヨウの機嫌の悪さに、俺は首を傾げた。
うーむ、イケメンが台無しになるほどの不機嫌である。取り巻く雰囲気が刺々しいもんだから、さっそく教室にいたクラスメートが顔を引きつらせている。
可哀想に……俺もヨウと関わりがなかったら、その不機嫌に縮こまっていたと思う。うん、気持ちは分かる。
「どうしたんだよ。朝から機嫌悪いじゃん」
さっさと席に座るヨウに倣って、俺も席に座る。
俺の後ろにヨウが座っているから、席に着いても、舎兄とは話しやすい。
見るからに苛々しているヨウに声を掛けると、「親父と喧嘩してきた」と、短い返事をもらった。
あちゃー。父親と喧嘩してきたのか。そら苛々するわな。お前と父親はめちゃくちゃ仲悪いもんな。
「また家に帰って来るなって言われたのか?」
「お前がいるだけで空気が悪くなるだそうな。うるせえ、俺の台詞だっつーの」
「ふうん、じゃあ丁度良かった。昨日、ばあちゃんが俺ン家に蜜柑を送ってきたんだけど、15キロ分あって困ってたんだ。ヨウ、ノルマはひとり五個な」
ぶすくれているヨウに五本指を見せつけると、不機嫌が苦笑いに変わった。
「俺、そんなに果物得意じゃねえんだけど?」
「蜜柑食べながら、映画見よう映画。五個なんてあっという間だって!」
「映画?」
「昨日、ジャッキーチェンの映画を借りてきたんだ。やっぱ若い頃のジャッキーチェンはかっこいいぜ。酔拳とか、プロジェクトAとか、いつ見ても楽しいしさ。三本借りてきたから、好きなの選ばせてやらぁ」
「ケイは本当に映画が好きだな」
ヨウの苦笑いがいつもの笑いに変わる。
こうなったら最後、俺のペースに乗せたといっても過言じゃない。
「何を言いますかヨウさん。映画だけじゃない。俺はアニメも好きだし、ゲームも好きだ。もちろん映画も大好きだ。学校サボって没頭したいくらいに!」
「喧嘩は?」
「うげえ……ピーマンと同じくらい嫌いなんですけどぉ」
「正直かテメェは」
「正直な俺が好きなくせに」
「うぜぇこいつ」
すっかりいつもの調子を取り戻したヨウは、さっきまでの不機嫌なんてどこへやら。
俺の調子ノリに合わせて、楽しそうに会話を弾ませてくる。