青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―


「うぅう、田山ぁ……」


 なに、この地を這うような声……。

 顔を上げると、愛すべき地味友くんのひとり長谷光喜(ながたにこうき)が両手を合わせて立っていた。なんで俺、拝まれてるんだ?

「俺を救ってくれ田山ぁ! 五百円貸してくれ!」
「五百円?」

「今日財布忘れちまってさ! 部活もあるのに、このままじゃ昼飯も食えないし飲み物も買えないんだよ! 野球部なのに飲み物すら買えないとか! 今からダッシュでアクエリを買いたいから、頼むっ、五百円貸してくれ! 小崎も五木も午前中しか授業ないからって、財布持って来てないって言うんだぜ!」

 朝練を終えたのに何も飲めていない、と嘆く光喜が必死に頼み込んでくる。
 ったく、おはようの挨拶もなしに、金をせびってくるのはマナーとしてどうかと思うぜ。あーはいはい、五百円ね。ちょっと待ってろって。

「ほら千円。これで買って来いよ」

 通学鞄から財布を探していたら、様子を見ていたヨウが光喜に千円札を差し出した。
 五百円じゃ足りないと思ったらしく、千円なら昼飯代も十分に足りるだろう、と言葉を付け足してくる。
 光喜は見事に衝撃を受けていた。学校で最も恐れられている不良から千円札を出されたんだ。そら驚くだろう。

 だけど、驚き以上に喜びが優ったみたいだ。

「要求の二倍もお金を貸してくれる! こ、こ、これがイケメンという奴! うっかり惚れるところだった!」

 ……いや、驚き以上にノリが優ったみたいだ。

「俺が女なら荒川さんにダイレクトアタックするところ。なんでそんなにイケメンなんですか! 俺の心を盗んでくる貴方は、まさか……ルパンなんじゃ!」

「お? 長谷の心を盗んだら俺のチームに入れていいんだな?」
「そら困ります! 田山で勘弁して下さい!」
「おいこら光喜。俺を売るんじゃない俺を」

 顔を引きつらせる俺に一笑いすると、光喜はヨウに三度お礼を言って、さっそく教室を出て行く。
 その際、明日ちゃんと返すからカツアゲは勘弁を、なんて言っていた。

 光喜はヨウ相手に馬鹿を言える、数少ない生徒のひとりだ。
 おおよそ俺伝いに話す機会を持ったことで、素のヨウと話すことが増えて、「こいつなら馬鹿を言っても大丈夫だ」と思うようになったんだろう。

 じゃなきゃ、光喜はあんなノリを見せない。
 地味友の間では会話の中心に立つことが多い光喜だけど、ノリを見せる相手はしっかり見極めるんだ。ヨウにあのノリが見せられる、ということは少なからず警戒心を解いているってことだな。
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