青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―
そこから蓮の記憶は曖昧なのだが、気付けば総合病院に赴いていた。
楠本の容態と緊急手術という状況を薄っすらボンヤリ耳にしたのだが、それも定かではなく。
ただ“路地裏戦”に勝利したのだと、他人事のように思い、虚ろに話を聞いていた。
複数に声を掛けられた気がするが、生返事しか出来ない蓮は適当に受け流して、ついには一人になりたくなって病院の外へ。
濡れ汚れた制服のまま病院に上がっていた傍迷惑な学生だったのだと、外に出る際気付いたが、どうでもいいことだと思いなおし、雨空の下に立つ。
先程以上に降り注ぐ容赦ない冷たい雨を一身に受けながら、蓮はぎこちなく両手を広げ、空に翳した。
雨粒によって濡れる手をひたすらに見つめ、見つめ、みつめ。
嗚呼。
声にならない声を漏らし、顔をクシャクシャに皺寄せて、その手を結ぶ。
おもむろに病院の自動扉横の壁に立つと、結んだ手を力の限り叩きつけた。
既に喧嘩で傷だらけの手を何度も、何度も、それこそ血が出ても、出続けても拳に感情をぶつける。
ざらついたコンクリート壁はやすりのような肌をしているため、必要以上に手を傷めたが蓮には関係なかった。
ただただ行き場の無い感情を壁にぶつける他、手段が無かったのだ。
血で汚れ始める壁、傷付く手、停まらぬ雨に溢れかえる感情。
どれも蓮を苛立たせていた。
繰り返し同じ行動をしていると、不意に後ろから片手首を掴まれ、動きが止まってしまう。
「蓮」
名を呼ばれるだけで、誰の声か分かり、蓮は翳していた手を下ろした。
よって手首を解放してくれるが、今の蓮に振り返る勇気は持てなかった。
そしてついに、吐露する。
自分はチームに戻るべきではなかったのだ、と。
「今度こそ間違いを犯さない…、そう思っていたのにっ、俺はまた間違いを犯しました。もっと別のやり方で決着を付ければっ、楠本はっ…、いえ、あいつは俺に助けられることさえ拒んでいました。それだけ俺はアイツを追い詰めていたっ。
“エリア戦争”の判断も今回の判断も何もかも、俺、おれっ、まちがえて」