青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―
こんなどうでもいい馬鹿なやり取りのせいで、また兄は周囲から笑われることになるのだが(皆が皆「性格が似ている」と指摘してくる)、浩介自身このやり取りのおかげで幾分心が軽くなったりならなかったりである。
余所で早く帰って欲しそうな面持ちを作る兄は、「まさか駄々捏ねてシズにくっ付いて来たのか?」迷惑掛けたんじゃないだろうな、と腰に手を当てて見下ろしてくる。
そんなんじゃないと脹れ面を作る浩介だが、兄は疑心を向けてくるばかり。
だったらどうしたのだと用件を聞いてくる。
途端に浩介は顔を渋らせて躊躇いを見せた。
持っていた習字道具に視線を流し、「あのね」と怖々口を開く。
「今日さ。習字にね…、来たの」
「はあ? 来た? 誰が」
「……、……、波子(なみこ)姉ちゃん。その、兄ちゃんに会いに来たみたいで」
訪れる沈黙。
おずおずと兄を見上げれば、物の見事に表情を強張らせている兄の姿が。
「え゛?」
今、なんて?
我に返った兄が、震える手で自分の両肩を掴みワンモアと頼んでくる。
「だからね」
浩介は同情しながら、努めて優しい声で繰り返した。
「兄ちゃんに会いたいんだって。波子姉ちゃん」
ピッシャーン。
衝撃という二文字が兄の背筋に走ったらしい。
「う、嘘だろ」なんで、そんな、顔から血の気を無くした兄は、
「ど、毒舌の波子が俺にあ、あ、会いたい?
…っ、あいつが俺に会いたいなんて理由、一つしかないじゃないかぁああ! も、もぉおお俺は習字と無関係な男なのにぃいい!」
うわぁあああイヤだ、俺は絶対の絶対の絶対会わないィイイイ!
兄、大発狂。
凄まじい勢いで浩介の腕を取ると皆に用事を思い出したから帰る、と言ってトンズラ。
喚き嘆き泣き言を連ねながら、その日、たむろ場から逃げ出したのだった。