青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―
「こっちたらぁ命が懸かってんだぞ」
モトはこめかみに青筋を浮かべ、
「ココロさんがスリに遭ったなんて響子さんに知られたら」
キヨタはグッと握り拳を作る。
「「オレ(っち)達、殺されちまうんだからな―――ッ!」」
そんなことになったら、どう責任とってくれるんじゃいワレェ!
全力疾走する二人の足は限界を超えても尚、加速。
呼吸が切れそうになっても減速などなく、住宅街に逃げ込む青年の後を一心不乱に追う。
自分達の本気を悟ったのか、青年は曲がり角を左折すると直進し、助走をつけて民家の塀を越えてしまう。
「クソッ」モトも助走をつけて塀を越えようとするが、キヨタが腕を取って踵返したためにそれが敵わなくなる。
「おい!」モトの非難を受け流し、「ケイさんならきっと」キヨタは曲がり角を飛び出すと、十数メートル先の曲がり角を左折。
そこには金木犀の木を掻き分け、民家の塀を乗り越えた青年の姿が。
「ケイさんに教わったとおりだ。ここら一帯の住宅街は家々が密接しているから、塀を乗り越えてもこの道くらいにしか出ないんだよ。数日前に歩いたばっかなんだ」
「でかしたキヨタ! グーンと距離が縮まったぜ!」
着地した青年が自分達の姿を捉え、やや焦燥感を表情に滲ませる。
それでも自分達から逃げるその様子。
イケる! 二人は捕まえられると口角をつり上げた。
それでも盗っ人は諦める素振りなく、アスファルトを蹴って逃走を繰り返す。
こっちがコンビに対し、向こうはピン。
持久戦では此方が圧倒的に有利だ。
スパートを掛ける如く、二人はグングン相手と距離を縮めていく。
青年は大通りに出ると、一旦通行人の間を縫うように走り、再び住宅街に飛び込んだ。
往生際が悪い、相手の背を睨んで後を追う。
そうして盗っ人の後を追っていると、青年はひとつのビルらしき建物に入った。
正しくは封鎖の意味で仕切られている錆びた太いチェーンを飛び越えていった。
そのビルは周囲の閑寂としたアパートと溶け込むような形で佇んでいる。
然程高くないビルだ。駐車場はあるも、非常に狭いスペースで二台分しか置けない。
目分からして、三階建といったところだろう。
二人は眉根を寄せる。
あそこは私有地なのでは?
堂々と中に逃げて行く青年に訝しげな気持ちを抱き、一旦出入り口で足を止める。
伝い下がってくる汗を手の甲で拭い、あがった呼吸を整えながら二人はビルを見据えた。
向こうに見えるは手押しのガラス扉。
微かに微動している扉は、誰かが扉に触れた証拠。