青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―
同時に飛び込んでくるヨウ達の姿。
リーダーは矢島の姿に驚いているようだが、すぐに表情を戻して彼の脇をすり抜けると飛躍。
何をするつもりなのか。
目を丸くするキヨタトとは対照的に、素早く頭を下げる兄分はパスだとばかりに持っていたバットを右手に手渡す。
受け取ったヨウはそれを勢いのままに振り下ろして、兄分の背後を取ろうとしていた不良に脅しを仕掛ける。
怯む相手に、「センスないぜ?」自分の拳で喧嘩もできないなんて臆病者することだとシニカルに笑い、痛恨の蹴りを相手の胸部にかました。
「左下注意!」
兄分が声音を張る。
「おっと」
足払いを仕掛けられそうになったヨウは、兄分の声音に反応してジャンプした。
着地の際、その足を踏んで、「不意打ちもダセェぞ」なんたって不意打ちは成功させてこそ美なんだからな。
ヨウは口角をつり上げる。
(これが舎兄弟…、なんっスか)
コンタクトも取らず、何をするのか互いに理解し、すれ違い様にパスする。言葉だけで反応できる。その阿吽の呼吸。
自分には到底真似できそうにない。
呆けるキヨタを余所に、相手を伸すとすぐに踵返すヨウ。
「きっと廊下だ」兄分が意見すると、「ああ」ヨウは返事をし、後は任せたと告げて、仲間達をその場に残した。
ワタルやシズ達の姿に兄分はもう大丈夫だと、肩の力を抜き、キヨタを抱き起こす。
脇腹を押さえるキヨタに、「怪我したんだろ」見せてくれ、と半強制的に兄分はブレザーを脱がしに掛かった。
カッターシャツと下着シャツごと捲って具合を見る兄分をぼんやり見ていたキヨタは、不意に兄分の右手に視線を流す。
腫れている右の手。きっとまだ書道出展の作品が出来上がっていないだろうに、手の甲が赤く腫れ上がっている。自分を庇ったせいで。
……筆、持てるのだろうか? あんなに腫れ上がって。
(俺っちダサい。ダサすぎる)
手腕のない兄分を守る。
それが手腕のある自分にとって最も誇れることだったのに、逆に守られてしまうなんて。守れてしまうなんて。
一体自分は何をしているのだろうか、キヨタは激しい自己嫌悪に襲われたのだった。