青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―
「ケイ。迎えに来た…、ケイ」
優しく頬を叩いて舎弟に声を掛ける。
何度かの呼び掛けにより、舎弟は微かに睫を震わせた。
ゆっくりと瞼を持ち上げる舎弟は、瞬きを繰り返し、「ん」と声を漏らす。
「遅くなってごめん」
いっつも俺はテメェのピンチに間に合わないな、泣き笑いを向けるとようやく舎弟は焦点をヨウに定める。
「俺が分かるか?」
ゆっくりとした口調で声を掛けると、舎弟は微かにだが嬉しそうに笑い、その頬を崩した。
大丈夫だと言いたかったのだろうが、声は掠れるだけ。意味を成さない。
それでもヨウにはちゃんと伝わった。
ちゃんと伝わってきたのだ。
自分を信じて待っていてくれたのだ、舎弟は。
「体調崩したって聞いた時、すぐ電話してやりゃ良かったな。テメェの声を聞けば、仮病かどうかすぐ分かるんだ。電話にしてやりゃ良かった」
テメェが学校に来ないから二日間、退屈でしょうがなかった。
他愛も無い話を相手にぶつけると舎弟はまた笑みを零してくる。
「よ、う」
ようやく振り絞った声と共に空いた右手を持ち上げ、舎弟はブレザーに手を突っ込むと水分の含んだ生徒手帳を差し出してきた。
受け取って欲しいのだろう。
ヨウは生徒手帳を受け取った。
きっと意味があるに違いない。
「あ、めだ」
舎弟は真っ暗な空を見つめて雨が降っているとぼやく。
負けず嫌いの誤魔化しなのだと気付いていたため、「酷い雨だな」と泣き笑い。
声を漏らす舎弟は、顔を歪めてヨウのカッターシャツを掴んだ。
また利用されてしまった、弱いばかりに。
そのことを詫びて詫びて…、ヨウはやんわりそれを拒絶。お互い様だと返した。
そう、いつもピンチに間に合わない自分がいるのだ。
だから舎弟の詫びは不要なのだとヨウは苦々しい笑みを深める。