青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―
「ココロさん。少し休んで下さい。俺っちが看てますから」
キヨタに声を掛けられ、ココロは顔を上げる。
「顔色悪いッス」
顔を洗ってきた方がいい。
後輩に気遣われてしまい、ココロは力なく笑う。
「でも私」傍にいたいんです、率直に吐露するとだからこそ休憩するべきなのだとキヨタは綻んだ。
「ケイさんが起きた時、ココロさんが幽霊みたいな顔色だったら超ビビるっスよ! ほらほら、顔洗ってくるッス!」
スッキリしてくるから、キヨタに背を押されココロは渋々立ち上がる。
シズに断りを入れ(タオルは自由に使っていいと言われた)、ココロは洗面台に立つ。
そこでバチャバチャ顔を洗い、洗い、あらい、気持ちが少しスッキリしたところで涙腺が緩んだ。
もしかしてキヨタに見抜かれていたのだろうか。
自分が無理して振舞っていることに。
だってしょうがないではないか。
自分だけメソメソとするわけにはいかなかったのだから。
ショックだったけれど、でも、メソメソうじうじとしていても仕方がない。
こうして帰ってきてくれただけでも喜ぶべきなのだ。
けれども。
タオルを取り出し、それを顔に押し付けて、ココロは今しばらくその場にしゃがんで感情を押し殺す。
「どうしてっ」
ケイさんがこんな目にっ、憤りや遣る瀬無さ、そして悲しみ、すべてが雪崩のように襲ってくる。
大切な人を弄ばれた悲しみは底知れず、憎しみもこみ上げてくるばかり。
「ケイさん、ケイさんっ…、けいさんっ」
キスした時に見せてくれたはにかみが遠い昔のよう。
嗚咽を噛み締め、ココロは声を殺した。殺し続けた。
洗面所に入ったきり出てこなくなったココロにキヨタは、深い溜息をついて彼女の座っていた場所に腰を下ろす。
やっぱり彼女は無理していた。
舎兄が戻ってきた時から一度たりとも、素の感情を表に出していなかったから心配はしていたのだ。
また一つ溜息をついて、髪を乱暴に掻いていると「お前は大丈夫か?」親友から声を掛けられた。
「ぶっちゃけ」
あんま大丈夫じゃないや、キヨタは苦笑いを零し、舎兄に目を向ける。
「いつかの楠本事件を思い出してる。あいつのやり方に賛同するわけじゃないけど…、ああ、あいつが舎兄を失った時の悲しみってこんな感じかなぁって。
でもなんとか大丈夫だよ、俺っちは。あの人を見ていたらまだ大丈夫かなぁって」