青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―
いつまでもお粥の中身をレンゲで掻き回していると、「圭太」母さんから怒られた。
はい、すんまそ。
食べ物で遊んじゃいけませんね。
お利口さんに食いますです。
お粥を掬ってふーっと息を吹きかける。
その動作を見やりつつ母さんは、「顔色は随分いいわね」他愛も無い会話を振ってきた。
「微熱まで下がったみたいだし、もう心配は要らないと思うけど、ちゃんと薬は飲むのよ。念のために後日、もう一度病院に連れて行くからそのつもりで」
病院に、か。
俺はお粥を口に入れて咀嚼する。
肺炎になりかけたんだからと早口で喋る母さんだけど、本当は別の意図で病院に連れて行きたいのかもしれない。
俺は自分の腕に巻かれた包帯を見つつ思案を巡らせる。
「それから」
庸一くん達が毎日のようにお見舞いに来てくれているから、お礼を言いなさいね、と母さん。
返事をする俺の気持ちは体と同じくらい重かった。
ここ数日の記憶がない、それに嘘はない。
でも俺がどうしてこうなったか、肺炎になりかけたか、怪我しているのか。
その記憶はしっかり憶えている。
最後の記憶は断片的にしか憶えていないけれど、俺は憶えている。
どうしてこうなってしまったのか、一連の出来事をすべて憶えている。
恐怖心がないといえば嘘になるけれど、今はさほど恐怖心が湧いてこない。
何故か、憶えているんだけど俺が思い出さないよう努めているからだ。
だって思い出したってしょーがないじゃんか。落ち込むだけなんだから。
早く元気になって皆の下に戻らないと。
メーワク掛けたことは謝って、助けてくれたことはお礼を言って、そしてまた頑張らないと。
だよな、戻ってくるって俺、ヨウに言ったもん。
そう、戻らないと。約束は破るもんじゃない。守るもんだ!
……あれ、なんかしっくりしないぞ。
どうしたんだろ。
前までの俺なら、ここでもう一つ、なんかノリをかますんだけどな。
これじゃ駄目なんじゃないか?