青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―
『圭太。今どこ? どこにいるんだ? 家か?』
嗚咽が漏れる。
これは安心からなのか、それとも恐怖心が堰切ったせいなのか、それは分からない。
ただひとつ言える。
俺は今、健太と繋がっている、いるんだ。
泣き出す俺の声を聞いた健太は、再三再四何処にいるのかと聞いてきた。
何も答えられない俺に、『何処にいたって』絶対迎えに行くから、と言葉を掛けてくれた。
それこそ外国だって一飛びだと健太。
ただ瞬間移動が使えないため、一日二日は掛かることを了承して欲しいとおどけてくる。
嗚呼そうか、俺もこうやってノっていたな。
健太のノリに懐かしさを覚えながら、声を振り絞って四文字の単語を紡ぐと電話が切れる。
携帯を横に置き、暫く膝小僧に額を乗せて時間を過ごしていると、金網フェンスが激しく揺れた。
ゆっくり顔を上げれば、わざわざ金網フェンスを乗り越えて俺の下にやって来る健太の姿がそこにあった。
フェンスを蹴って綺麗に着地した健太は転がるように駆け寄ってきて両肩を掴んでくる。
荒呼吸のまま無事かと顔を覗き込んでくる健太に俺は瞳を揺らした。
「はぁ…、じゃ、ジャスト12分掛かった。カップ麺が四つもできる。少し…、煙草を控えるべきかも。すぐ息切れする。これでも全力疾走してきたんだぞ」
だって約束だしさ。
一笑してくる健太に唇を震わせる。此処まで一人で来てくれたらいい。
ストーカー事件以降、必ず誰かと一緒に行動していたあの健太が、形振り構わず俺の下に駆けてきてくれた。
それが本当に本当に嬉しくって。
でも申し訳なくって。
「けんたっ…、ごめん…俺、こわくて」
吐き出す感情に笑いもせず、「もっと早く」おれを頼ってきて欲しかったな、と一言零す。
「だってお前、全然おれに助けさせてくれなかったんだもんな」
言葉に茨が巻きついているけど、それは心配ゆえだと分かった。
馬鹿、お前はもうこんなに俺を助けてくれているじゃないか。
走って来てくれたじゃないか。
来てくれたじゃないか。
「っ…、りがと」
相手の肩に額をのせて声を漏らす。
「馬鹿だな。約束だろ?」
いつの間にか相手に縋っていたけど、健太は抱擁してもう大丈夫だからと言葉を掛けてくれた。
いつまでもいつまでも声を掛けてくれた。