青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―
鉄扉に背を預け、その場にしゃがみ込んで腹部を押える。
この部屋こそ俺が監禁されていた一室、いや倉庫だ。
だからなのか真面目に気分が悪い。
倉庫に入りたいのに、足が竦んで入れないんだ。
既に部屋の中に入れない時点でアウトだろもうっ、思い出すレベルじゃないぞ。
くっそーっ、何ビビッてるんだろっ。ダサイぞ俺。いやでも怖いのも確かで。たしかで。
まざまざと記憶が蘇る。
二日間の記憶が走馬灯のようにっ…、鮮明に、より鮮明に。
ポンッと肩に手を置かれる。
頓狂な悲鳴を上げる俺を余所に、
「ワタルちゃぁああんクラッシュ!」
その手がガッチリ頭を締めてきた。
ギ、ギブギブっ、ワタルさんギブですからっ!
相手の腕を叩いてギブアップを申し出ると、にひゃひゃとうざったく笑い、ワタルさんが俺の体を肩に担いだ。
ちょっ、グロッキー気味の俺にこの体勢は辛っ、辛いから!
おぇっ、胃が圧迫されてリバースしそう。
「わ、ワタルさん。お、お、下ろしてくださいっ、吐く! 吐きます!」
「でぇーじょうぶ」
ケイちゃんは吐かない子だから、とワタルさんはケラケラ笑って俺の訴えを一蹴してしまう。
いや俺だって吐く子だよ!
俺ニンゲンだものっ、我慢できない時は笑う! 泣く! 怒る! リバースだってなんのそのなんですがう゛ぐっ、や、や、やばいぃいい!
これはマジできてっ、うぇえぉおおい!
胃が限界って言ってるっ!
俺自身も限界ぃいい!
でもワタルさんはお構いなしにズンズンと室内に入り、「格子窓へご案内」と軽快な口調でそこに赴いてくれる。
青褪めながらもふと俺は気付いた。強引なやり方だけど、ワタルさん、一緒に部屋に入ってくれたんだって。
ほんっとにもう、この人は明るくうざ口調で接してくるもんだから気遣いが分かり難いよ。
ワタルさんの優しさ、分かっちゃったけどさ。
強引も強引に、しかも重い空気を蹴散らしながらワタルさんが格子窓に連れてってくれたから、俺はちょっと気分を持ち直すことに成功する。
どっこいせっせ。
親父くさい掛け声と共に俺を下ろしたワタルさんは、「運賃は千円っちょ」と右の手を差し出してくる。
えー、そこは無償の友愛でしょうよ、ワタルさん。笑いながら俺は格子窓から外を覗き込む。
そう、この格子窓から俺は外を眺めていたんだ。
48時間という短いスパンではあったけれど、俺は冷たいコンクリート床に腰を下ろし体の痛みと恐怖に耐えながら、ひたすら窓から景色を見ていた。
仲間が気付いてくれると信じて。
仲間が絶対に気付いてくれると信じて。