青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―


そんでも……、なんでだろうな。


真っ向から飛ばしてくる舎兄の視線を受け止めた俺は、

「時間は惜しいだろ?」

チャリを取ってくると告げ、すくりと立ち上がり軽く右肩を回した。


オイル切れらしく骨と骨の繋ぎ合わせがミシミシと軋んでいる。

こんなんでチャリがかっ飛ばせるだろうか? 不安だ。


「ケイ」表情を和らげるヨウとは対照的に、「うぇええ?!」マジッスか?! キヨタが頓狂な声を上げた。


「か、体をなんだと思ってるんッスか! 幾ら兄貴の決断でも俺っちは反対ッスよ! だ、駄目ダメダメッス! 大反対ッス!」


チャリを取りに行こうと出入り口に向かう俺の前に素早く回ってくるチビ助は通せん坊して大反対だと声音を張ってくる。

「無理して貴方がやる必要ないッス!」

他のチームメートだってやれることではないか。
それこそ自分だって代役できる。

そんなにチームメートが信じられないのかと咎めてくるキヨタに一笑し、「そんなことないさ」ちゃんと信じてると返事した。
 

「ならっ…、どうして」

「んーっ、そうだな。俺が底知れぬカッコつけだからかもしんねぇ。なによりノーとは言えない田山なのですよ。生粋の日本人なので」


俺のノリにふざけないで真面目に答えて欲しいとキヨタがジロッと睨んでくる。

おっとっと。
これは真面目に答えているつもりなんだけどな。

心配してくれているキヨタに笑声を漏らし、

「いざとなったらお前が背中を守ってくれるだろ?」

相手に問う。
面食らう舎弟に、これがお前の舎兄だ。諦めてくれと肩を竦めた。
 

「お前の舎兄は期待されたら調子に乗って動く馬鹿な奴なんだよ。
たとえ、恐怖心を植えつけられていても、体がちょい死にかけてても、調子こいてカッコつける馬鹿なんだ。

チームメートを信じてない? いや信じているから動くんだよ。

だって何か遭ったらチームメートが助けてくれる」


お前もそのひとりだ。現に俺を助けてくれた。

舎弟のでこを指で弾き、「俺の背中はお前に預ける」だからお前は大いに舎兄に振り回されてくれ。それが舎弟のさだめだと綻んで、相手の頭をくしゃっと撫でるとチャリを取りに今度こそ外に出た。


そう、これはさだめなんだよ。

舎弟は舎兄に振り回されるもんだ。


ココロも、俺の性格を分かってくれると思う。後でこってり絞ってきそうだけど。
 

と、キヨタが俺の後を追ってまた前に回ってくる。


キョトン顔を作る俺を見上げ、「それじゃあ!」俺っちが最前線で付回しますから! これに文句は言わせないと舎弟が強い眼差しで見据えてくる。


「何かあれば飛び出すッス。それが俺っちなりの舎弟のあり方ッス。
俺っちは腕っ節しかない。ヨウさんみたいにカリスマ性もリーダーシップもねぇッス。役に立てることなんて腕くらいしかないッス。
それで卑屈になっていた時もあったッスけど、今は俺っち」
 

「キヨタ。俺はお前を信じてるし、頼りにしてる。だから好きにしろよ。俺が好き勝手してるんだ。お前もそれくらいする権利はあるさ。あ、でも舎兄のお守り宜しく」


  
「勝手な兄貴ッス」ようやく舎弟の表情が緩和する。

「今頃気付いたのか?」どの世代の舎兄も自分勝手なんだと俺はおどけてみせた。


反面、こうも言えるわけだ。気軽に身勝手を起こすほど舎弟を頼りにしている、と。
 
 
だからこそ俺はヨウが申し出た案に乗ったんだよな。

久しぶりの二人乗りをする際、何処となく躊躇いを見せたリーダーに早く乗るよう促し、相手の考えに理解を示してやる。


「三倍仲間想いのお前が何にも想わず、俺に無茶要求するなんてない。それは俺が一番知ってらぁ。分かってて乗ったのは俺だから、安心して乗って来いよ。兄貴」

「ケイ…、悪いな。喧嘩、本当は出たくねぇんだろ?」


今更すぐる、その気遣い!


「昔から俺は喧嘩に出たくない人間なのでご安心を。
それにヨウ、お前はリーダーとして当然の事をしただけだ。

チームにとってナニがいっちゃん良いか、考えて案を出しただけ。ぜーんぶ分かってるさ。

あんま自分の判断に思いつめんなよ。大丈夫、何か遭ったらすぐお前に言うから」


「ああ。頼れよ」表情を崩してくるイケメンくんに返事して、俺は後ろに乗ってくる相手を顧みた。
 

「久しぶりだから運転には期待するなよ。ヨウ」


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