青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―
―――…と、格好はつけてみたけど現実は手厳しいらしい。まったくもってシンドイ。
たむろ場から出てすぐ近くの自販機にチャリを停めた俺は忙しなく肩を上下に動かし、あがった息を整えていた。
「おい大丈夫か?」
後ろに乗っているヨウに気遣われる。
平気だと片手を挙げるけど、ぶっちゃけあんま大丈夫じゃない。
思った以上に体が動かねぇ。
二人乗りってこんなにしんどかったっけ?
ペダルってこんなにも重たかったっけ?
ハンドルも二人乗りをしているせいか取られそうになるし、後ろに乗せているヨウもめっちゃ重い。
お前太った? マージ重いんだけど。
まだたむろ場からさほど距離が開いていないのに、もうこれだ。
ははっ、情けねぇ。
キヨタに反対されるわけだ。
マジ体が死んでやんの。腹立つ。
「ケイ。俺が漕ごうか?」
ヨウの気遣いは嬉しいけど、俺は首を横に振ってハンドルに凭れていた上体を起こした。
確かに舎兄が漕いでくれた方が俺的には有難い。
が、オトリである以上、チャリに慣れていないヨウが担当するより、俺が担当した方が無難だ。
仮に喧嘩に遭遇してみろ。
ヨウの両手足が塞がっていたら元も子もねぇじゃん。
チャリの後ろでサポートできるほど俺もできちゃない。
これが一番なんだ。
「ブランクがあるせいかな」
久々過ぎて体がちっとも動いてくれないや。
おどけを口にして、ハンドルを握りなおすとペダルに足を掛けて前進させた。
ハンドルを右に切ると、「悪い」萎れた声で謝罪される。
やめろって。
そうやって力を抜けさせるの。
調子乗りは今、サイッコーに気取ってみせようとしているんだからさ。
「おっと」
チャリのバランスを崩しそうになり、どうにか体勢を整えようとハンドルを動かす。
次いで力なく肩を掴んでいるヨウにしっかり握っとけと叱咤した。
落っこちても拾ってやんねぇぞ、悪態をついて変に気遣ってくるリーダーを一瞥した。
「さっきも言ったけどお前の決断は間違っちゃねぇよ。お前はリーダーとしてチームを守ろうとしている。結果的に無茶しなきゃいけない面が出てきた。そんだけだ。
大丈夫、無茶している面も全力で仲間がサポートしてくれるさ。お前のチームだ。信じろって」
「ああ、そうだな」
まだ声に感情が篭っていない。そんなに後ろめたさを感じさせているのか?
訝しげに舎兄に視線を送る。
らしくない能面をかぶっている舎兄は目を細め前方を見据えていた。
鋭い眼光を覗かせている。焦燥感が宿っているようにも思えた。
「ヨウ?」声を掛けると、「ちょっち焦ってるんだ」ヨウが自嘲染みた笑みを零した。
矢島のことか? これでも奴のところまでハイスピードに飛ばしているんだけど。
俺の言葉にそういう意味じゃないとやんわり否定するヨウは、色々と気が焦り始めているのだと吐露した。
「矢島が里見と繋がっている。俺達のすぐ傍に繋がりがあるって思うだけで、やっべぇくらい体が疼くんだ。できることなら親玉を表に引きずり出して今日で決着をつけてぇ」
それは血の気の多いお前らしい言葉だけど、何処となく違和感を感じるのはなんでだ。
「手前の甘さが里見に好機を与えた。今思い出しても腹が立つ。俺を狙うだけじゃねえ。俺の弟分や舎弟に手ぇ出して、仲間内を引っ掻き回したことは許しても許しきれないことだ。
里見達だけは、不良狩りなんざクダラネェ事を目論んだ奴だけは、俺の手で仕留めないと気が済まねぇ」