一途に IYOU〜背伸びのキス〜


すれ違うのは、スーツ姿の人ばかり。
時間もあるのかもしれないけど……居心地が悪くて、自然と歩く速度が上がる。

櫻井はそんなあたしの後ろをちょろちょろしながら、しつこく聞く。


「つーか、髪! どうしたんだよ。
それもあいつと何か関係が……」
「別にって言ってるじゃん! も……ほっといてよ」


じわって、目が熱くなる。
だから、キャップを深くかぶり直して、顔を隠したのに。

後ろからそれを取り上げられる。


「ちょっと……っ」


慌てて振り返ると、キャップを手に持った櫻井が、真剣な顔をしてあたしを見ていた。


「……なに?」
「全部、話せよ。そうすればきっと、少しは楽になれるから。
咲良は、頑張りすぎなんだよ」
「優しい言葉とか、言わないで」








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