一途に IYOU〜背伸びのキス〜
『誕生日、咲良を突き放すために、わざと約束を破って同期と飲みに行って……。
でも、結局心配になって、9時半に帰ったんだ』
『え、じゃあ入れ違いだったんだ!』
『自分で突き放したくせに、咲良の作った料理を見て罪悪感感じたり……翌朝、夢の中と勘違いして咲良を抱き締めたりして。
中途半端な自分が心底嫌になった』
『え……あれ、最初からあたしだって分かってて抱き締めたの?』
『だって俺、名前呼んでたろ。“咲良”って』
『呼んでたけど……他の誰かと間違えてたのかと思った』
『違うよ』
『っていうか椋ちゃん、あたしの夢とか見たりするんだ』
椋ちゃんは黙って、苦笑いするだけだった。
まずい事言っちゃったみたいな顔で。
それからは、何を聞いてもはぐらかされたから、きちんと話したのはそこまでだけど。