一途に IYOU〜背伸びのキス〜


「ほら、でもまだ決定してるわけじゃないし……」
「あたし、何も、聞いてない……っ」


目を伏せて言う。

収集って……。
転勤って。


そんな事、今まで一言も言ってなかった。


「あたし、帰ります」
「あ、ちょっと……っ! 本当にまだ決まってないんだからね!」


後ろから須田さんの声が聞こえたけど、振り返らずに走った。



――椋ちゃんと一緒にいるためだったら、なんでもする。

けど。
椋ちゃんがどこか遠くに行っちゃうなんて、思いもしなかった。


転勤なんて……嘘だよね。
あたしを置いて、どこか遠くに行っちゃったりしないよね?


椋ちゃん――。



『咲良より10年も長く生きてるせいか、色々余計な事ばかり考えたりして』
『俺にだって事情があったし』


椋ちゃんが考えた、余計な事って。
事情って。

なに?



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