一途に IYOU〜背伸びのキス〜


会話がヒートアップしそうだった時。
横から椋ちゃんの声に止められる。

隣を見ると、真面目な顔した椋ちゃんがあたしを見ていた。


『今日は報告に来ただけで、ケンカしにきたわけじゃない。
それに、転勤の話はまだ時期が確定したわけじゃないから』
『それはそうだけど……』


チラって見ると、椋ちゃんは優しく微笑んであたしの頭をなでた。


『今日は、俺の気持ちを信じてもらうために来たんだから、咲良が信じてくれたなら、それだけで十分だろ』
『……うん』


十分……なわけない。

パパとのケンカは不完全燃焼だし、パパの言い分は説得力にかけるし。


でも、椋ちゃんが笑顔で見つめてきたりするから。
あたしは、それだけで口を閉じて頷く以外の選択肢をなくす。

……我ながら簡単な女だ。



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