一途に IYOU〜背伸びのキス〜


『えー……じゃあ何時くらい?』
『さぁ。仕事の進み具合によるから』
『……』
『なに、その顔』


指摘されて、ふてくされそうになっていた顔を笑顔に戻した。

だって、仕事が大切だって事くらい、あたしだって分かってるから。
だから、笑顔で『なるべく早く帰ってきてね』って言って、部屋を出た。


今日が自分の誕生日だって、椋ちゃんは気付いてるのかな。

去年はクラッカーの紙ふぶきを頭に乗せたまま停止して、しばらくしてから『ああ、誕生日か』ってリアクションだったけど。

帰りが遅いって聞いてふてくされそうになるのはいつもの事だし、今年ももしかしたら涼ちゃんは気づいていないのかもしれないと思いながら、時計を見ると、18時5分を指していた。


「早く帰ってこないかなー」


ガラスのテーブルに散りばめた、色とりどりの花。

椋ちゃんが帰ってくるのが、待ち遠しくて仕方ない。


少しでも喜んでくれるといいな。

料理とかケーキを。

帰ってきた時、あたしが待ってる事を。


ほんのちょっとでいいから、喜んでくれますように。








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