一途に IYOU〜背伸びのキス〜


部屋中央にいる先生を、ドアから一歩入ったところから気合いを入れて睨むように見ていると、不機嫌そうな顔で聞かれる。


「あいつ、目の前で彼女を抱き締められたりしてんのに、あんな簡単に引き下がるんだな。
おまえ、本当は大事にされてねーんじゃねーの」


「大事にされてるし!」といつもみたいに返事をしてしまってから、ケンカしにきたわけじゃないんだと思い出して、落ち着いた口調を心がけようと自分自身に言い聞かす。

今日は先生のペースに乗せられちゃダメなんだ。

ちゃんとした……大人の話をするためにきたんだから。


「椋ちゃんは……仕事の事を考えてそうしただけ。
椋ちゃんは、会社の顔だから」
「会社の顔?」


そう聞く先生をじっと見ながら答える。


「椋ちゃんはパパの会社の社員で、来月、先生のところと取引する担当者だから」


何も言わない先生に続ける。


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