一途に IYOU〜背伸びのキス〜


「絶対に別れないし……ケーキもパパに話しとく。
まぁ、先生の人間性のせいでそこまで名前が知れ渡ってなかったとしても先生のところから頼んであげるよ。
ただでサラダ作りを教わった義理もあるし」


ふざけんなと苦笑いをもらした先生が、冷蔵庫に向かう。
そして中から取り出した箱をあたしに突き出した。


「コンビニデザートとは関係ないけど、俺が作ったケーキ。
彼氏と食え」
「え……いいの?」
「おまえはともかく彼氏には迷惑かけたから」
「ああ、お詫び? 素直じゃないなぁ……痛っ」
「最後のチョップだな」


そう言って笑った先生を睨んでいると、ふっと微笑まれる。


「早く行けよ。もうこの教室は終わりだ」
「あ……うん。
あの、先生。短い間だったけど、ありがとうございました」


ぺこりと頭を下げてから見ると、先生が微笑んでいて。


「おまえの彼氏……葉山さんっていったっけ。よろしく伝えとけ」
「うん!」


先生が椋ちゃんの事をきちんと呼んだ事に気づいて、ぶわって嬉しさが膨れ上がる。

咄嗟に、葉山さんなんて呼んだ先生を「大人になったねー」なんてからかいたい衝動に駆られたけれど、最後の最後に先生を怒らせちゃマズイとぐっと我慢した。
そして、もう一度頭を下げてから教室を後にした。





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