一途に IYOU〜背伸びのキス〜


「パパもね、私のために土下座してくれた事があったのよ」
「え、そうなの?」
「パパとお付き合いしてる時にね、他の男の人から求婚された事があったの。
その人に対して、パパ、土下座してね。
譲れない代わりに僕が必ず幸せにしますからって言ってくれたの」


「ね、パパ」と笑顔で聞くママに、パパはバツが悪いのか困ったような笑顔を返す。


「娘の前で父親の威厳をなくすような事は言わないで欲しかったな……」
「あら、威厳なんて元からそんなにないじゃない」
「おまえ……そうハッキリ言わなくても……」
「それに私にとっては素敵な思い出だもの。
今でもあの時の事よく思い出すのよ。
できる事なら、あの男の人に会って、きちんと幸せにしてもらってますって言いたいくらいよ」


なんかもう……娘の前でやめて欲しい。
気恥しくなって、お風呂に入ってくると立ち上がって退室しようとすると、ママが呼び止める。


「明日の朝、クロワッサン焼くから。葉山くんに持って行ってあげてね。
ママの新作なの」




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