一途に IYOU〜背伸びのキス〜


椋ちゃんは顔をしかめながら近づいて、あたしがよつんばいになってる前にしゃがんだ。


「大丈夫か?」
「あ、うん……ちょっと、走りすぎただけだから……」
「本当に加減を知らないよな、咲良は」


やれやれって感じのため息。
口調だって呆れてるのに。

椋ちゃんが優しく微笑むから、嬉しくて胸がキュって鳴く。


「今コーヒー入れたところだけど、飲む?」
「うんっ」


笑顔で頷くと、ぽんぽんってあたしの頭を撫でた椋ちゃんが立ち上がる。


ふわってあたしを包んだ空気。
いつもの椋ちゃんの匂いがした。








< 55 / 342 >

この作品をシェア

pagetop