硝子の破片
最初は傲慢な兄貴を痛めつけるだけのつもりだったにも関わらず、春樹は菜々子に心底惚れてしまっていたのである。


自責の念も祐樹を慕う気持ちも、菜々子の前では跡形もなく消えていき、彼女を抱きしめずにはいられなかった。


『私も…春樹が好きよ』そう言って、微笑んだ菜々子。


その瞳には涙が滲んでいた。


二人の板挟みになり、彼女もまた苦しんでいたのだ。


祐樹に事実を打ち明ける時が来たと、ついに春樹は決心した。


兄貴を失う羽目になるという恐怖の反面、祐樹なら二人の気持ちを理解してくれるのではないか、そんな期待もあった。


その期待通り、『菜々子ちゃんをよろしく頼むな』と言って、祐樹は春樹の肩を叩いてくれた。


だがその数時間後。


祐樹は衝突事故を起こし、帰らぬ人となってしまった。
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